獣医師日記

今日は久しぶりに本業(?)の腫瘍外科のお話です。
しばらく手術症例の投稿ができていなかったのですが、最近、お盆前からずーーーっと治療していた子がようやく治療終了になったのでご紹介させていただきます!

ちょうど長崎の日でしたか、前日急に倒れて虚脱状態、呼吸困難で来院された8歳9か月のわんちゃんの胸部レントゲンがこちら ↓ (すいません、画像が左右反転してます。右側がこの子の頭側です)

胸部レントゲンだというのに心臓が見えず、気管も背中側に押しやられていてなにやら真っ白な影が画面いっぱいに広がっています。
エコー検査を行うと心臓の頭側に大きな腫瘤が見えました。すぐに針生検を行ってこの子の胸部の腫瘍は胸腺腫の疑いが出ました。が、これだけ巨大だとすぐに外科摘出を行うのは大変危険です。

胸腺腫には安全に摘出可能かどうかのガイドラインがあり、あまり大きすぎる場合は(日本に一桁しかいらっしゃらない超凄腕腫瘍専門医以外は)外科適応ではなく、放射線治療や内科治療の適応になります。

ちょっと見にくいですが、この子の胸腺腫の状態を客観的に測定したものがこちら↓↓
スコアは45点中37(数値が小さい程状態が良い)で今の段階では手術不適応レベルです(>_<)

すぐに外科手術できない理由はもうひとつあります。

大きな胸腺腫があるために血液中のカルシウムの値が高くなって虚脱状態になったり、心臓の動きに影響が出たり、重症筋無力症という病気を引き起こしてる場合がとても多いのです。
このわんちゃんの場合も来院時倒れて呼吸ができにくい状態でしたのでまずは内科治療から始めました。
酸素室に入院していただき点滴と治療を開始すると、翌日には虚脱状態から立ち上がれるくらいまで回復しました。
そのまま盆明けまでねばったところ胸腺腫スコアも8日間で37点から21点まで下がり手術適応ギリギリレベルまで改善できました!
下の左側が8日目のレントゲンです。正常な黒っぽいところが増えてきているのがお分かりかと思います(右に比較のため初日の左右反転しているレントゲンを載せています)

無事に酸素室から出ることができたので、その後は退院し、ご自宅での内科治療をがんばっていただいて2か月後、根治治療のために外科手術で胸腺腫を摘出させていただきました。

手術当日のレントゲンとCTです

 

3D-CTにしてもらうとこんなかんじ↓↓(緑が腫瘍 赤が心臓と大血管です)

腫瘍の大きさは心臓よりひとまわり大きいぐらいでしょうか?
蜘蛛の巣のように腫瘍に血管がまとわりついてます。この血管は胸腔内の大きな動脈や静脈から分岐してきているので術中操作を間違うと破裂して大出血を引き起こしかねません。というわけで術中はこの血管を剥離して確実に止血していくのにいちばん苦労しています(>_<)

これだけ腫瘍が大きく前胸部にある場合は胸の正中、胸骨を縦切開してがばっと大きく胸腔を開いて腫瘍を摘出します。(開胸しても腫瘍が大きすぎて心臓肺が見えてきません↓)

これは腫瘍がとれたところ。

時間はかかりましたがキレイに摘出できました。手術は大変過ぎて久しぶりに足腰ガタガタにはなりましたが…
術後の出血も少なく、痛みのコントロールも良好だったため順調に回復することができましたヽ(^o^)丿

 

補足ですが、胸腺腫は小さいときはまったくの無症状です。巨大になるまでほぼ症状が出ないと言っていい腫瘍です。健康診断をマメにしていればどこかで引っかかってくる可能性はありますが、それ以外では腫瘍が小さいうちに発見することはまず不可能だと思っていただいてもいいと思います。
また胸腺腫はたいへんえげつない大きさに成長し重篤な症状がでますが、そのほとんどは良性の腫瘍です。
早いうちに外科摘出することで完治が望める腫瘍のひとつでもあるということを知っていただくとうれしいです。

フルフル