パル日記

2024.06.30

獣医師コラム★第5回『猫のリンパ腫』

みなさんこんにちは。第5回獣医師コラムは、パルの猫好き代表の小野が担当します!

今回は猫のリンパ腫についてお話ししていきます。

リンパ腫はリンパ球系細胞の悪性増殖性疾患であり、猫の増血器腫瘍の50~90%を占める疾患です。

年間100万頭中200頭が発症していると言われています。

 

猫のリンパ腫には猫白血病ウイルス(FeLV)が強く関連しており、FeLV陽性の猫は、陰性の猫に比べてリンパ腫の発症リスクが約60倍と言われています。リンパ腫は、FeLV陰性猫は老齢での発生が多いのに対して、FeLV陽性猫は若齢での発症が多く、好発部位も異なります。最近は飼育方法の変化や、ワクチン接種率の上昇によって、FeLV陽性の猫が少なくなってきました。そのため、かつては若齢での縦隔型リンパ腫の発生が大部分を占めていましたが、現在は老齢での消化器型リンパ腫の発生が最も多いと報告されています。また、猫免疫不全ウイルス(FIV)感染によってもリンパ腫の発生率は増加すると言われています。

 

リンパ腫には様々な型があり、それぞれ症状が異なります。以下が代表的な型と主症状です。

他にも鼻腔、皮膚、腎臓、眼に発生するものもあります。

 

リンパ腫を診断するためには、まずは身体検査、血液検査、画像検査(レントゲン検査、超音波検査、CT検査、MRI検査など)を行い、全身の評価をします。そしてリンパ節を含むリンパ系組織の細胞診や病理組織検査にてリンパ球の腫瘍性増殖を確認することで診断できます。縦隔型、消化器型、中枢神経型では、腹水、胸水、脳脊髄液など、リンパ系組織以外でも診断がつくことがあります。また、腫瘍化したリンパ球が確認できたら、PCRを行ったり、形態を評価することによって、High grade/ Low grade、T細胞性/B細胞性に分類することができます(新kiel分類)。今まではその分類を用いて予後や化学療法への反応性などを判断してきました。しかし、研究が進むにつれて4つに分類しきれないものが発見され、予後や治療への反応性も必ずしも判断できないこともあり、最近は新しい分類方法が出てきています(新WHO分類)。また、FIV、FeLV感染によって罹患率などが大きく異なるため、猫のリンパ腫の診断のためにはこれらのウイルス検査が必須です。

 

リンパ腫の治療には、基本的に抗がん剤を用いた化学療法を用います。複数種類の抗がん剤を組み合わせた多剤併用療法がメジャーです。発生部位によっては、放射線治療や外科的摘出が適応になることもあります。リンパ腫は根治が難しい疾患であり、治療はあくまでもQOLの向上、生存期間の延長を目指すためのものです。治療経過で病変が消失することを完全寛解と言いますが、この場合も腫瘍細胞が残存していると考えられ、引き続き治療を継続する必要があります。

 

リンパ腫は早期発見、早期治療、治療の継続が重要な疾患です。猫ちゃんたちのわずかな変化も見逃さないよう、日々の体調チェックや定期的な健康診断を重ねていきましょう。また、前述の通り、リンパ腫はFIV、FeLV感染によって発症率が上がってしまいます。そのため、猫ちゃんを外に出さない、FeLV予防ができるワクチン接種を徹底するなど、日頃からウイルス感染対策を心がけましょう。

 

獣医師 小野