パル日記

2024.08.29

獣医師コラム★第7回『再発性皮膚細菌感染症』

こんにちは。獣医師の前田と濵田です。 今回は再発性皮膚細菌感染症に対してどう対応していくのかをご紹介したいと思います。

 

皮膚感染症には、外部寄生虫症(ノミ・マダニ・疥癬・ニキビダニなど)、真菌症、 微生物(細菌やマラセチア)感染症などがあります。 外部寄生虫症や真菌症は皮膚検査で鑑別を行い、ノミダニ駆虫薬や抗真菌剤を投与して治療していきます。投薬時には改善するが投薬をやめると再発を繰り返す場合は、個体の条件として皮膚領域で増殖を抑制する因子の欠損または低下が重 要視されています。これらの基礎因子として、1皮膚バリア機能異常、2免疫異 常からの炎症による痒み、3痒み誘発因子からの知覚神経刺激による掻痒行動の 関連があります。よってこれらの因子をもつアレルギー性皮膚炎と再発性皮膚感 染症には関連があり、痒みのケアと同時に感染のケアも行っていく必要があります。

【膿皮症】

【マラセチア性皮膚炎】

感染症の対策としては、1薬物療法、2悪化要因の対策、3再燃防止戦略、4スキンケアがあります。スキンケアとしては、適切なシャンプー療法と保湿です。 皮膚バリア機能が低下すると、皮膚の細胞間接着が機能不全を起こし角質水分量が 低下して乾燥する事で皮膚のPHが上昇すると悪玉菌(ブドウ球菌)が優位に増加し感 染が起こります。そのため、シャンプー後の保湿は大切ですし、日常的な皮膚の保湿 ケアも必要です。また悪化要因の対策と再燃防止として、シャンプー療法とシャンプ ーしない日に日常的に行う感染対策と皮膚バリアの修復が重要です。 シャンプー療法についてはまた後日紹介したいと思います。 今回は薬物療法に頼らず日常的に毎日出来る感染対策と皮膚バリア修復ケアに関して 紹介します。

 

当院では、これらを口腔内ケアと糖アルコール(エリスリトール[ERT])を用いた皮膚 常在菌静菌制御と海洋療法(タラソテラピー)による外用ケアを行う事で再発防止をコ ントロールする事を推奨しています。痒いと舐める行為も行うことから、唾液に含まれる歯周病菌も皮膚の感染源になり ます。そのため、口腔内ケアを行う事で歯周病菌を減らすことが皮膚感染症のリス クを減らします。また、歯石防止や身体の健康維持にも効果的です。 口腔内歯周病菌予防にエリスリトールを推奨しています。

 

糖アルコールの一種であるエリスリトールは皮膚感染源となるブドウ球菌 (S.pseudoinrmedius)と歯周病菌(P.gulae)に対して静菌作用により増殖抑制をして菌 数を減らす事が証明されています。 また、抗生剤が効きにくいメチシリン耐性株(MRSA)に対しても増殖抑制効果が証明さ れています。

 

【歯根部の炎症による痛みに対し てエリスリトールジェル(ERDジ ェル)の使用により炎症と痛みが 緩和された例】

 

★感染症に対する対策(膿皮症/マラセチア性皮膚炎)

①フィトンチット・・・抗掻痒効果、抗炎症効果、皮脂分泌抑制効果

②岩塩バスソルト・・・抗菌効果、保湿効果、バリア機能改善効果

③エリスリトール(ERT)・・・抗菌効果、抗炎症効果、ターンオーバー正常化

 

また、ERTを含むEVSスプレーには、活性持続型ビタミンC(APS)も含まれ、これが ERTの作用を増強してくれることも分かっています。 ERTは細菌のバイオフィルムを破壊する静菌作用で増殖を抑制します。 抗生剤外用薬の場合は、殺菌作用として周囲のブドウ球菌や皮膚常在菌減らします が、バイオフィルムは破壊されず残ってしまうため再発に繋がりやすくなります。

 

【抗生剤による細菌感染に対する治療】

【ERTによる細菌感染に対する治療】

 

⚫EVSスプレーの効果

①皮膚細菌叢のバランスを改善・・・皮膚悪玉菌の静菌性アプローチ、バイオフィルムも破壊

②皮膚バリア機能改善・・・保湿、抗炎症、抗酸化、ターンオーバー正常化

 

 

また、アトピー性皮膚炎の人が海水浴で皮膚が良くなるタラソテラピー(海洋療法)の原 理を犬に応用して良好な結果が得られています。

 

⚫超古代岩塩ソルトパウダーの効果

①海水に含まれるマグネシウムによる皮膚バリアの改善(タラソテラピー効果)

②塩分による皮膚の殺菌効果

③ミネラル(Ca、Mg、Znなど)の経皮吸収(毛穴の洗浄)

④収斂[しゅうれん]効果(塩化ナトリウムなど塩化物)による皮脂分泌低下

⑤ミネラルが被毛に入りキューティクルが引き締まり被毛にコシが生まれ起毛

⑥マグネシウム塩など有用塩による保湿効果

⑦水道水の塩素を中和

 

⚫フィトンチットの効果

天然植物に侵入しようとする有害な微生物や昆虫から身を守る自己防衛のため、葉 や幹から分泌・発散している揮発性物質であり、①消臭・脱臭効果、 ②除菌・抗 菌・防虫 、③有害物質分解作用、 ④リフレッシュ効果、 ⑤抗酸化などが言われます。 フィトンチットをエリスリトールと併用する事で、皮脂分泌が抑えられる時間が持続され、マラセチア増殖抑制のコントロールを手助けしてくれます。

 

【ERTと岩塩バスソルトを併用して再発を抑制した例】

↓抗生剤使用

↓1週間後(EVSスプレー+岩塩バスソルトパウダー)

 

 

このように、皮膚疾患は再発を繰り返す際には特に、何が原因だったのか根本的原因を見つけることがとても大切です。 食事の変更をしていないか?草むらに入らせていないか?シャンプーをしたのはいつ が最後か?保湿はできているか?ストレスを感じていないか?ノミダニ予防は適切か? 皮膚疾患の原因は様々です。日常的に愛猫・愛犬の様子をしっかりと観察してあげて 下さい。 とはいえ日常的なケアも投薬も、日々根気が必要です。できる限り無理なく行える治 療をご提案しつつ、必要な治療の重要性もお伝えします。 皮膚トラブルの多い夏のシーズン、乗り越えていきましょう。

 

 

獣医師 前田・濵田

引用元:アトピー性皮膚炎における塩水療法:臨床的有用性の検討    Polish Journal of Veterinary Sciences Vol.25,No.1(2022)