パル日記

獣医師コラム★第11回『角膜潰瘍』
こんにちは。獣医師の中武、濵田、前田です。
第11回目の獣医師コラム、テーマは『角膜潰瘍』です。
これは深さの差はありますが、角膜に欠損のある状態のことを指します。
それでは、角膜の構造からお話しします。
角膜は眼球の最も外側に位置する透明な膜で、血管が通っていないため光を通すことができます。
(図1の赤い部分)
この特性により、外からの光を集めて網膜に届ける役割を果たし、生物は光を感じることができま
す。
血管は通っていませんが神経が豊富に分布しているため、角膜が傷つくと痛みを感じることがあり
ます。
角膜は外側から順に、角膜上皮、基底膜、角膜実質、デスメ膜、角膜内皮の5層で構成されていま
す。(図2)
角膜潰瘍にはいくつかの種類があり、その分類は角膜の傷がどの層まで達しているかによって決ま
ります。(図3)
①表在性角膜潰瘍:角膜上皮が欠損している
②実質性角膜潰瘍:潰瘍が角膜実質まで及んでいる
③デスメ膜瘤 :潰瘍がデスメ膜まで及んでいる
眼圧により潰瘍底が突出することがある
④角膜穿孔 :潰瘍が角膜内皮まで達し貫通している
角膜潰瘍の症状としては次のようなものがあげられます。
・目を閉じ気味にする
・涙が出る
・瞬膜が出る(目頭方向から膜が出てくる)
・めやにが出る
・白目が赤い
・結膜が腫れる
・目を気にしてかく
・目の表面(角膜)に白く斑点が見える
・目の表面(角膜)全体が白っぽく見える(角膜浮腫)
角膜潰瘍の原因としては次のようなものがあげられます。
・外傷
擦過傷など
・慢性的な物理的刺激
逆まつげ
内側に巻き込んだ瞼
・乾燥
涙の量が少ない(ドライアイ)
閉眼が不十分で常に眼球が出ている(兎眼など)
・異物
・細菌感染
・化学物質、薬剤
シャンプー
ステロイド性または非ステロイド性点眼薬
点眼薬中の防腐剤
・免疫介在性
・眼瞼腫瘤
角膜潰瘍の診断のために次のような検査を行っていきます。
・フルオレセイン染色
フルオレセイン染色液を点眼することで、角膜上皮の欠損や上皮の細胞同士の接着が弱いところに液が浸透し、角膜の欠損部分を検出します。青いライトを当てることで欠損部分が蛍光に光ります。また、スリットランプを用いることで角膜のどの層にまで潰瘍が及んでいるか確認できます。
・マイクロブラシを用いた細胞診
細菌や真菌の感染の有無を調べます。
・細菌培養同定、薬剤感受性検査
細菌感染を認めた場合、菌種同定や抗菌薬選択のために実施することがあります。
角膜潰瘍の治療法は潰瘍の進行具合によって異なります。
・単純な角膜潰瘍の場合
浅い部分のみの角膜潰瘍であれば、治療を行えば3日から1週間で良くなっていきます。
治療は主に下記に示す通り点眼薬などを用います。
抗生剤の点眼薬:細菌の増殖を抑える
角膜保護成分の入った点眼薬:角膜を保護し損傷部分の修復を助ける
エリザベスカラーの装着:目を掻いて傷が悪化するのを防ぐ
・複雑な角膜潰瘍の場合
上記の治療に加え、根本的な原因(物理的な刺激や目の乾燥など)がある場合は、それに対する処置や治療が行われます。
さらなる潰瘍に対する内科的治療法として、下記のものがあります。
血清点眼:犬の血清を用いて損傷部分の修復のための栄養を与える
アセチルシステイン点眼:角膜実質のコラーゲン線維を溶かす酵素の働きを抑える
抗生剤の内服:全身への感染を防ぐ
・難治性の角膜潰瘍の場合
内科治療のみでなく外科的治療が行われることもあります。
外科的治療には下記のようなものがあります。
デブリードマン:角膜の修復を妨げている剥がれた角膜を除去する
格子状角膜切開術:角膜の表面に格子状にごく浅い傷をつけ修復を促す
ソフトコンタクトレンズ装着:角膜を保護する、デブリードマンや格子状角膜切開と並行して使用されることがある
瞬膜フラップ術:目頭側にある目を覆う膜である瞬膜をまぶたに固定し、潰瘍部を外的刺激や乾燥から守る。涙が常に角膜の表面にいきわたるので、潰瘍部の修復を促進する
結膜フラップ術:結膜で潰瘍部を覆い結膜の血管から栄養を供給することで修復を促進する
角結膜転移術:近くの健康な角膜で潰瘍部を覆う
また、一般的な角膜潰瘍とは別に難治性角膜上皮びらん(SCCEDs)という特殊な疾患もあります。
角膜上皮と角膜実質の間の細胞の接着が弱いことによる再発性、難治性の角膜潰瘍です。
角膜潰瘍と診断を受けて経過検診を行うことで発覚することがあります。(図4)
好発犬種として、
ボクサー
フレンチブルドッグ
ウェルシュコーギー
ゴールデンレトリーバー
などがあげられます。
最後に…
わんちゃんにとっても五感はとても大事です。人間よりも短い生涯であるからこそ、ひとつひとつの五感を大切にできるだけ長く残してあげたいですね。それをしてあげることができるのは飼い主様です。日頃からしっかりとお顔を見てあげてください。
獣医師 中武・濵田・前田
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