パル日記

2024.04.02

獣医師コラム★第2回「再生医療」

みなさんこんにちは!本院院長の二宮と勤務医の船田です。

前回の宮本先生の FIP のコラムに続き 2 回目のコラムとなります。

今回は椎間板ヘルニアの治療の一つである『再生医療』についてです。

※手術の写真が出ますので苦手な方はお気を付けください!!

 

椎間板ヘルニアの病態は、脊椎のクッションの役割をしている椎間板という物質が、圧迫や

変性が起こり背側(上側)にある脊髄神経を圧迫してしまい、疼痛や麻痺など運動障害が起

きることを言います。

 

症状によりグレード(重症度)が分かれます。

1.運動障害が起きていなく、痛みのみ。

2.歩行は可能だが、ふらついたり、踏ん張りが弱くなる軽度運動障害。

3.一部神経反射が消失し、重度の歩行困難を呈する。

4.歩行不可。完全麻痺を起こし、自力で動かせない。

強い刺激に反応する深部痛覚は残っている。

5.歩行不可。深部痛覚消失。自力での排尿排便不可。

 

このような症状を起こしているときは、レントゲン、CT、MRI により診断を行い高度のグ

レードになると外科的な手術が適応されます。

 

 

外科手術は、片側椎弓切除による脊髄神経の圧迫の減圧、圧迫物質の除去を行います。

近年では圧迫物質の除去を主目的とし、脊椎の負担を軽減するミニマムな術式がよく行わ

れます。

 

 

しかしながら、脊髄神経の圧迫や損傷の程度によっては、手術をしても回復が望めない場合

があります。または心臓や呼吸器疾患など他の疾患により麻酔をかけることが困難で手術

を行えないこともあります。従来、そのような場合は、リハビリの継続や車椅子生活、排尿排便のケアが必要になっていました。

 

ところが、近年、術後改善が認められない場合に使用が可能な再生医療のお薬が発売されま

した。

 

獣医療における再生医療では、幹細胞を用いた再生医療がすでに実施されています。その中

でも獣医療で最も多く使用されている幹細胞の一つに間葉系幹細胞(図 1)があります。

 

 

間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cells:MSCs)とは、中胚葉系組織に由来する体性幹細胞

の一種であり、自己複製能と多分化能を有する細胞のことです。間葉系細胞は、骨髄、脂肪

組織、歯髄、滑膜、臍帯血といった様々な組織から培養することができ、培養も容易です。

現在、これらの中で獣医療において最も使用されているのは、脂肪組織由来間葉系幹細胞で

す。そこで 2021 年 3 月にこの幹細胞を用いた犬の椎間板ヘルニアの治療法の一つとしてス

テムキュアという製造販売承認を得た世界初の犬用再生医療等製品(図 2) が発売されまし

た。

 

 

薬効薬理としては間葉系幹細胞が局所環境の刺激で活性化されて産生する液性因子のパラ

クライン効果(細胞からの分泌が、拡散などにより近隣の細胞に作用すること)免疫を調節

し、微小循環障害を改善することにより、疾患動物が本来有する自然治癒力が活性化され、

身体能力が回復すると考えられています。

 

本製剤を静脈内投与するとほとんどの細胞は肺に一旦補足されるが、その後、徐々に脊髄の

損傷および炎症部位に移行して、一週間程度で体内から消失すると考えられています。そし

て、移行した細胞や肺に捕捉された細胞から分泌される液性因子によって椎間板ヘルニア

が生じた周囲の脊髄の炎症を抑制したり、二次性脊髄損傷の進展を予防したり、髄鞘を修復

することで、臨床兆候が改善すると推測されています(図3)。

 

 

当院でもステムキュアの使用例はあり、歩行機能が劇的に改善しました。今後、こ

の再生医療は、治療法の1つとして組み込まれていく可能性があります。

 

参考文献

Vet i : veterinary information : ヴェットアイ

DS ファーマアニマルヘルス.2022 No. 34(2022)

 

 

 

二宮弘通・船田翔平